前回の続きです。
見知らぬ女性から逆ナンされホテルへ行って中出しセックスをしたうえ、その女性から帰りのタクシー代まで出してもらったというエピソードをお話ししました。今回はその後日談です。じつはあの翌日、私は体に異変を感じてクリニックを受診したのですが…。
起きたら目が真っ赤になっていた!
翌日、いつものように昼過ぎに目を覚ますと(失業中でしたので)、トイレで用を足し、そのあと洗面所へ行きました。そのとき、異変に気付いたのでした。
鏡に映った自分の顔を見たとき、私は戦慄を覚えました。左目が真っ赤に充血していたのです。疲れ目で充血しているレベルではなく、黒目の縁から白目のほうへと明らかに出血しているように見えたのです。こんなことは初めてで、いったい何が起きたのかと、私は不安になりました。
顔を洗ったあと、部屋に戻ってもういちど鏡でよく確認してみましたが、先ほどとまったく変わらず、眼球の表面に、べっとりと血が付着している感じでした。
とっさに昨夜のことが脳裏によみがえりました。私をナンパして中出しセックスまでさせたあの女…。やはりあの女は何かよからぬ病気に侵されていて、それを見ず知らずの男性に感染させる目的で中出しセックスさせていたのではないかと、ほとんど確信に近い疑いを抱いてしまいました。
不安に圧し潰されそうになりながらも、なんとか気を取り直して、体の他の部位にも何か症状が出ていないかチェックしましたが、今のところ目の症状だけのようでした。
私は近くの眼科クリニックに電話をかけ、症状を説明したうえで、今からすぐにでも受診したい旨を伝えました。運よく午後一番の枠が空いていたので、予約を入れました。
女医さんに中出しセックスの事実を伝えると…
診察室へ入ると、40代前半くらいの(まあまあ美人の)女医さんが「こんにちはー」と抑揚のない声であいさつしてきました。私も「こんにちは」と返したつもりでしたが、緊張と不安のせいか、ほとんど声になりませんでした。
「朝起きたら目が真っ赤になってたんですね?何か心当たりは?ぶつけたとか、強くこすったとか…」
女医さんから聞かれた私は戸惑ってしまい、言葉が出てきませんでした。
「ん?どうされました?何か困ったことでもあった?」
早口で聞き返してくる女医さん。いつまでも黙っているわけにもいかず、私は勇気を振りしぼって正直に話すことにしました。
「あのぅ…じつは……性行為のことで、ちょっと気になったことがありまして…」
私は女医さんと目を合わさないようにパソコンのモニターのあたりを見ながら話しました。女医さんも私のほうは見ずにパソコンのモニターを見ていました。視線を注ぐ方向だけはお互い同じだったようです。
「それで…あのぅ…そのぅ…避妊をせずに……」
かなり小声でぼそぼそした話し方で、しかも最後のほうはうつむき加減だったせいか、女医さんも聞き取りにくかったようで、私のほうへ耳を寄せてきました。
「ああ、コンドーム着けずにしちゃった?ああそう、それで病気が心配になったのね?」
周りにはっきりと聞こえる声でそう言い放った女医さん。近くにいた数人の女性看護師が一斉にクスっと笑ったような気がしました。
話しているときはただただ恥ずかしかったのですが、このときにはもう恥ずかしさを通り越して、どうにでもなれという心境になっていました。
診察の結果、感染症ではないことがわかりました。
「結膜下出血ですね」
抑揚のない声でそう言った女医さん。乾燥などが原因で血管がやぶれて出血したものだそうで、くしゃみや咳でも出血することがあるのだとか。
べつに心配することはないと言われました。1~2週間で自然に治るとのことで、目薬すら処方されませんでした。
「性病の可能性はないですか?」
私が念を押すように聞くと、女医さんは「どうしても心配なようでしたら検査はできますけど、今回の診断内容では保険は適用されませんよ。どうされます?」と聞き返してきました。
私が黙り込むと、女医さんは「保健所へ行けば、無料で性感染症検査をやってくれますよ」と言いました。
「本当に性病ではないのですか?」
さらに食い下がる私を見て、女医さんは初めて笑みを浮かべ、私の目の症状と性感染症との違いについて詳しく説明してくれました。私もようやく納得しました。帰り際、女医さんは性感染症に関するパンフレットを渡してくれました。
初めての性病検査
眼科の女医さんから何の心配もないと言われ、ひとまず安心した私でしたが、やはり念のため、いちど性病検査を受けておこうと思いました。今まで性病検査など受けたことがなかったので、どんなものなのか経験だけでもしておこうという考えもありました。
大阪府では、保健所へ行けば無料で、しかも匿名で検査が受けられます。予約も必要ありません。私が居住している地域の保健所は区役所内にあり、自転車で10分ほどの場所でしたから、近いうちに行ってみようと思いました。
ところが、区の公式サイトの検査のページを見てみると、性感染症には潜伏期間があり、体内で抗体ができる前に検査を受けると正確な結果が得られないことがあるとのことでした。
保健所で無料検査が受けられるのは、HIV、梅毒、クラミジア感染症に対する血液検査と尿検査です。それぞれの性感染症の潜伏期間は以下のようになっています。
・HIV:4~8週間
・梅毒:約3週間
・クラミジア感染症:1~3週間
これら3つの性感染症は、感染しても無症状であったり、症状に気づきにくいことが多いため、自分以外の人に感染させてしまう可能性があるそうです。そのため自治体では、これら3つの性感染症にしぼって無料で検査が受けられるようにしているのだといいます。
すぐにでも検査を受けに行きたい私でしたが、潜伏期間を考慮すると、最低でも2か月は期間を置いてからのほうがよさそうでした。
そうこうしているうちに3か月が過ぎ、梅雨が明けた7月半ば、いよいよ初めての性病検査を受けに行くことになったのでした。
平日の朝早くから区役所へ足を運び(このときもまだ失業中でした)、検査場がある4階の保健福祉センターへ向かいました。性病に感染している可能性はないと信じながらも、やはり緊張していたのでしょう。4階に着いたときには心臓がバクバク鳴っていました。
検査場の中へ入ると、よくカフェなんかの前に出ているようなメニューボードがあり、そこに検査項目が書かれてありました。何やら高齢者向けの検査も同じ部屋で実施されていました。
「こんにちはー。性感染症の検査ですか?」
「はい、そうです」
若い女性スタッフが応対してくれました。
「今日はどの検査になさいますか?HIV、梅毒、クラミジアの3点セットでも受けられますが?」
女性スタッフに聞かれ、私は唖然としてしまいました。まるでオーダーを取りに来た店員のような問いかけに、思わず「ここはカフェかっ!」とツッコミを入れたくなりました。
「3点セットで」
「かしこまりました。3点セットおねがいしまーす!」
奥のブースに声をかける女性スタッフ。私は何とも言えない気分になりました。
スタッフの女性に案内され、待合スペースに腰かけてアンケートを記入しました。年齢と性別以外には個人情報を記入する必要はまったくありませんでした。
アンケートの記入を終えると、まずは尿の採取をします。スタッフから紙コップとスポイト、プラスチック製の採尿管、そして採尿の手順が書かれた用紙と手提げのビニール袋を受け取り、トイレに行きます。
尿を採取した採尿管をビニール袋に入れ(それ以外のものはトイレのごみ箱に捨てます)、検査場に戻ってスタッフに渡します。
そのあとすぐに血液検査を受けます。美人でスタイルのいい女性看護師さんに採血してもらいました。
「アルコール消毒でアレルギーが出たことはありますか?」
「いえ、ないです」
「途中、お気分が悪くなったときは遠慮なく言ってくださいね」
「はーい」
「では、針を入れていきますねー。ちょっとチクッとしますよー」
「はーい」
ほんの数分のあいだだけでしたが、私の視線はずっと看護師さんの股間のあたりに釘付けになっていました。あともう少し時間が長ければ勃起していたかもしれません。
こうして、あれよあれよという間に私の初めての性病検査は終わってしまいました。検査結果は1週間後に出ます。郵送やメールでの通知サービスはなく、再度保健福祉センターまで足を運ぶ必要がありますが、失業中だった私にはちょうどいい暇つぶしになりました。
検査結果に、涙…。
1週間後、区役所の前までたどり着いた私の足取りは重く、さらに4階までの階段は果てしなく長い道のりに感じられました(なぜエレベーターではなく階段を使ったのか自分でもわかりません)。
不安と緊張のせいで、保健福祉センターに着いたときには息切れし、フラフラになっていました。何もないことは確信していましたが、万が一ということを考えると、居ても立っても居られない気分になってきました。
検査結果を受け取る場所は、この前の検査場とはべつの部屋でした。中へ入ると誰もおらず、受付カウンターの上にチリン!と鳴らすベルが1個置いてあるだけでした。
ベルを鳴らし、奥の部屋から出てきた女性スタッフに検査結果を聞きに来た旨を伝え、前回もらった検査番号が書かれた用紙の控えを渡しました。
数分待ってスタッフから渡されたのは、DMが入っていそうな薄っぺらいビニールのパッケージでした。その場でパッケージを開け、中に入っている検査結果の用紙を確認します。封を切る手が小刻みに震え、危うく中の用紙まで破ってしまいそうになりました。
結果は……
3項目とも陰性でした!
思わず溜め息がこぼれ、全身からすーっと力が抜けていくのがわかりました。
「これって、まったく何も無かったってことですよねぇ?」
私は女性スタッフに用紙を見せ、確認しました。
「そういうことになりますね」
女性スタッフが微笑みました。
不安と緊張から一気に解放されたせいか、不意に目頭が熱くなる感じがしました。女性スタッフに礼を言い、部屋を出ると、私はいつになく軽い足取りで保健福祉センターをあとにしました。
性感染症検査のすすめ
現在、日本国内で性感染症のひとつである「梅毒」の感染者数が急増しており、今年10月23日までに全国で1万人を超えました。現在の統計を取り始めた1999年以降で最多となるペースでの増加だといいます。
その背景には、SNSやマッチングアプリを介した不特定多数の人との性行為(パパ活など)や、コロナ渦で集客率を上げるために「NS=ノースキン」などのリスクの高いサービスをおこなう性風俗店が増加していることなどが指摘されており、各自治体や医師会が注意を促しています。
この状況に対し、専門家はこう話します。
「性の多様化は個人の自由に関わることなので、規制することはなかなかできません。このため、自分で自分を守るための『知識』と『予防力』が重要です。…この病気は、いつ誰がかかってもおかしくありません。症状が出ないこともありますので、自分が感染していないとは思わずに、気軽に検査をしてほしいです」
幸い私は今のところ一度も性感染症を患ったことはありません。初対面の女性から逆ナンされて中出しセックスした翌日に体に異変を感じたときはさすがに焦りましたが、性病検査を受け、陰性とわかったときの嬉しさと解放感はこの上ないものでした。ホッとしすぎて涙が出そうになりました(笑)。
各自治体が運営する施設や保健所では、匿名かつ無料で性感染症検査を受けることができます。交際前や結婚前など、節目節目での検査も有効だと専門家は言います。自分で自分の身を守るためにも、気軽に性感染症検査を受けてみるのがいいかと思います。
ちなみに、私を逆ナンしてきたあの女性。彼女とはその後もときどきメールでやり取りをしていました。しかし、あるとき私が食事に誘うと、「もう無理でーす」と一行だけのメールを返してきて、それ以降いっさい連絡がつかなくなってしまいました。
彼女はいったい何の目的で私をナンパし、中出しセックスまでさせたうえ、帰りのタクシー代まで渡してきたのでしょう。結局、謎のままになってしまいました。
彼女と連絡がつかなくなった数日後、私はアルバイトを始めました。公務員を辞め、いつまでもブラブラしているわけにもいかなかったので、新たな就職先が見つかるまでのあいだ、とりあえずバイトでもしようという気持ちになったのでした。