「反社の人に話を通しておいた方がいい」
「紹介しようか?本気でやるならだけど…」
みなさん、どうしても反社の人たちに会わなければならないとなったら、どうしますか?
どんなに前に進むためであっても、恐怖で会うのをためらうのが普通だと思います。
私もそのひとり。
風俗サイトを作ろうと決めたが、風俗店のオーナーからのアドバイスで、そうするなら、反社の人たちに話を通しておかなければならないらしい。
その現実を知り、恐怖に慄きながらも、自らの生活を賭けて、会うことを決心した。
そして、風俗店のオーナーにアポを取ってもらうことになった。
「ちょっと待っててね。今、連絡してみる。」
オーナーはそう言うと席を立ち、店の外へ向かった。
数分後…
オーナーは、席に戻ってきた。
「1週間後の夜に時間が取れるみたいだから、会いに行こう。〇〇にある●●ってお店に19時ね。大丈夫だと思うけど、絶対、遅れないようにね。」
突如として決まった1週間後のアポにビックリしながらも、今更、逃げ出すことなんて出来ない。
はい、わかりました!
よろしくお願いします!
そうは言っても、内心は、恐怖が勝っている。
自分のアングラ知識は、ネットやテレビからしか得ていない人間からしたら、本物の反社組織なんて、恐怖以外の何物でもない。
それが顔にでも出ていたのだろう。
オーナーが察して言葉をくれた。
「大丈夫だよ。そんな怖い人じゃないから。怒ったら怖いけどね(笑)」
いや、全然フォローになってない!
怒らせないようにだけ注意しなきゃ…
長く感じる1週間
オーナーと別れ、帰宅した途端、色々な思いが浮かんでくる。
大丈夫なのか?
勢いでOKしちゃったけど、この選択、間違えてない?
やっぱ断ろうかな?
今なら断れそう…
あ、でも、怒らせたらいけないし…
この心のやり取りを毎日毎日繰り返した。
そして、今思えば、何を考えていたんだろうと思うが、ソレ系の映画やドラマを見まくった。
ちょっとでもその世界の知識を得ておこうと考えていたのかもしれない。
余計に怖くなるだけなのに。
そんな折、言葉で伝えるだけより、資料もあった方がいいかも?と思い、資料を用意することにした。
どういう風俗サイトにするのか、どの程度の開発予算と開発時間を考えているのか、営業方法など。
まるでプレゼンテーションするような気持ちで資料を作った。
後にこの行動が良い方向に転ぶのだが。
しかし、あまりに緊張しているのか、時が経つのが遅く感じる。
1週間がこんなに長く感じたのは、この時ぐらいだろう。
気付けば、会う場面を想像して、独り言で予行練習を何度も何度も繰り返し行っていた。
そして、その日を迎えた。
本物の人たち
凄まじい緊張の中、30分前には現地に到着するよう出かけ、その通り、30分ちょっと前ぐらいに現地へ到着した。
予約名義なんかも聞いてないし、分からないから、店の外で待つことにした。
風俗店のオーナーには、現地に着き、店の外で待っている旨を連絡した。
それから15分後、風俗店のオーナーが到着した。
「早かったね!びっくりしたよ!さぁ入って待ってようか。」
風俗店のオーナーに促され、店内へ入ると、一番奥の部屋へ通された。
人生初のVIPルームだ。
こんなに広くて煌びやかな部屋があるとは…!
それにこのお菓子やらフルーツ…めちゃくちゃ高そう…!
お金、全然持ってきてないけど…
そんなことを考えながら、ド緊張の中、座りながらもピシっと背を伸ばし、待機する。
約束の時間を少し過ぎた時、VIPルームの扉が開くと、3人が入ってきた。
自分より明らかに若く見え、ガタイも良く、街で会ったら絶対目をそらしたくなるような風貌の人。
風俗店のオーナーと同じくらいの年に見え、短髪で服装も見るからにソッチな人。
自分と同じ年ぐらいで全くソッチには見えない、リュックを持ったパーカー姿な人。
年配で明らかにソッチな人が偉い人なんだろうなと、直感で思った。
とんでもない威圧感。
これが本物か…!
前を3人が通る際、風俗店のオーナーは、バッと立ち上がり、
「ご苦労様です!」
と声を出して、頭を下げる。
それに倣い、立ち上がり、挨拶をする。
その人たちが席に着いた後、顔を上げ、席に座られたのを見て、席に座る。
風俗店のオーナーが
「お忙しいところ申し訳ありません。この間、お電話でお話しした風俗サイトの件ですが、ここにいる彼がそのサイトを作ろうとしている人間です。」
〇〇と申します。今回はお時間を作っていただきありがとうございます。よろしくお願いします!
失礼のない程度に張った声で自己紹介をした。
すると、一番偉い人だろう男性が
「こちらこそよろしくお願いします。とりあえず、飲み物頼んでから、色々お話しましょう。小腹も空いてますし。」
あれ?めっちゃ敬語?
確かにドスの効いた声なんだけど、すごい丁寧で面を食らった。
店の人間を呼ぶチャイムが押されると、数秒後、ノックと共に店長クラスだと思われる人物が入ってきた。
「いつもありがとうございます。ご注文は何にいたしましょう。」
みんな生ビールを頼むので、自分も合わせて、生ビールを注文した。
小腹には、近隣で有名なお寿司屋で桶を頼んであると店長クラスの人は言った。
すぐに生ビールと寿司が部屋に届けられ、より一層、VIPな感じがしてきた。
寿司も回転寿司ではない、絶対に高級なやつだ!
めっちゃうまそうだけど、このメンツではなかなか食べれないな…と思っていた時、一番偉い人だろう男性がグラスを手に持ち…
「乾杯しましょうか。」
と音頭を取ってくれた。
「乾杯!」
そこにいる方々とグラスを突き合わせる。
その時、目の前にいる人たちが超本物であることに気づく。
小指がない…
3人中2人の方の小指がない…
「本物」を目の当たりにし、より一層、緊張感が高まる中、夜の宴が始まった。